2011年11月9日水曜日

10人兄弟とコイン@インド最南端カニャークマリ


●夕日と朝日が共鳴するところ

「朝日が昇り夕日が沈む聖地」と誰かが遠くを見る目で語る。
なんでも、「同じ立ち位置で、海から現れる太陽を拝み、海に消え行く太陽にお別れを告げることが出来る」と言うのだ。

昔から最南端だとか最北端、あるいは東南アジア最大だとかいった言葉に弱い。最北端に魅かれ宗谷岬を、東南アジア最大に魅かれトンレサップ湖を訪れたこともあった。
その聖地はカニャークマリと呼ばれる。インド最南端に位置する南インド旅のハイライトである。
ミナークシー寺院で有名なマドゥライから列車で約12時間、終点であるカニャークマリ駅に到着した。

最北端の地、宗谷岬
●隣の部屋の宿泊客

「おにーさん、どこから来たの?」
開け放たれた窓の鉄格子越しに見えたのは、1人の子供の姿だった。腕時計を見ると朝の7時。その日の僕は朝日を拝むために朝4時に起きていた。眠い目を擦りながら、子供のいる廊下に出る。
「日本からだよ。君は?」
彼はそれには答えず、ウシシシシとだけ笑い、隣の部屋に入って行った。そうか、隣の部屋の宿泊客か…。部屋に戻って、荷物整理をすることにした。午前のうちに次の町へ向けて出発するつもりだった。
「コンコン」しばらくすると、ドアを叩く音がした。
また来たな…。僕は彼を喜ばそうと各国で集めてきたコインを探した。大切に集めてきたけれど、少しくらいならとコインを入れた小袋を片手にドアを開ける。
すると、彼は3人になっていた。正確に言うと弟2人を引き連れてきていたのだ。一瞬たじろいでしまった。
3人を部屋に招き入れると、彼らは僕の荷物に興味を持ち、「これはなに?」「こうして使うんだよ」「すげー!」となった。悪くないなぁ、と僕は少し得意げな気持ちになる。
彼らの興味は永遠と尽きそうになかったので、「みんな、そろそろ、やることがあるから行きなさい! ほらほら〜」と部屋から出てもらう。
「あ、そうだコインをあげる」と最後に1枚ずつコインを選び取らせてあげた。ありがとう! バタバタバタッ。
彼らは嵐のように去っていった。

カラフル衣装がたまらない

●僕がその宿に泊まったワケ

マドゥライからカニャークマリ駅に着くと、徒歩で最南端の岬に向かった。途中、日本人の女の子とすれ違う。(やっぱり日本人は世界中にいるなぁ、そりゃ1億2千万人もいるんだから全世界の人口から考えれば、60人と出会えば日本人に遭遇する計算なわけで、当たり前の話だよな〜。これが、人口50万のルクセンブルク人だったら違うだろうな。そういえば、ルクセンブルク人の僕の担当教授は元気かな〜)などと考えていると、呼び止められる。
「あれ、もしかして日本人でした? あ、やっぱり! こんなとこで会うなんてすごいですね、南インドって全然日本人に会わなくて」
振り返ると、すれ違ったはずの日本人の女の子がいて、畳み掛けるように話しかけてきた。
「その荷物…ってことは、今着いたんですよね? 宿紹介しましょうか? 私のところ一泊100ルピーで泊まれますよ、私は女の子だってことで80ルピーにしてもらいましたけど!」
彼女は随分と愛想良く笑う。でも、全然心がときめかない。
恋愛に価値観というファクターはとても重要だと聞くが、まさにその通りだと思う。僕は日本人の彼女を見ても全然すごいなんて思わなかった(もちろん、少しは気になるけど)。対して、彼女はそう思った。まさに価値観の相違だ。

意外と多い家族連れの参拝者たち

彼女の強い推しで、僕はその宿に泊まることになった。90ルピーだった。
価値観どうのこうのと言っていても、「オシに流されるのもまた、恋愛である」と格言めいたことが頭に浮かぶ。
やはりメシは一緒にいくのだろうか…、そしたらその後も流れで、ビールでも飲みながら談笑して…むむ!
アラビア海に沈む夕日

ベンガル湾より出づる日の出

彼女は僕を宿まで連れて行くと、自分の荷物を背負い、「では、私は次の町へ行きますね、またどこかで!」とあっさり出て行った。

恋愛とはあまのじゃくである。

●似て非なる夕日と朝日

そんなこんなで、僕はその宿に泊まり、アラビア海に沈む夕日を眺め、ベンガル湾から昇る朝日を拝んだ。


荷物整理を終え、朝食のために宿を出る。南インドは飯がうまい。
ミールスと呼ばれる定食とチャイを飲んで、満足げに宿へ戻ると、先ほどの3人のうちの年長の兄が、「他の弟も欲しいとねだるんです、連れてきてもいいですか?」と聞いて来た。
ちゃんと、許可を得るところが可愛く感じられて、僕は快諾する。コイン、もう少しくらいなら余っているからいいよ、連れておいで。
僕はコインを1枚握って廊下で待つ。だが、やってきたのは6人の男の子だった。合計9人兄弟!? あわてて部屋に招き入れ、コインをベッドにぶちまける。
「ほら、みんな1人1枚だけ選んでいいよ」
内心ハラハラだった。とりあえず、1ヵ国につきコイン1枚だけは残したかったから。その時点ですでにベトナムのコインが残り1枚…。頼む、ベトナムコインを選ぶないでくれ! そう願っていると、みなタイバーツだとか日本円(500円玉も地味に痛いので、選ぶな! と願った)だとかを選ぶ。祈りが通じたのか、無事ベトナムコインは守られた(500円玉も)。
「さようなら」の段になって、何人かの子供たちが見送りにきてくれた。
健気で可愛いでないか! ぜひ写真を撮らせてほしい、というとみんな快諾してくれた。
ファインダーを覗くと、初見の女の子がいることに気づいた。
どうやらみんなの姉らしいが、弟たちの影でモジモジしていた。はて? そうか、弟たちの手前、コインをねだれないのかもしれない、きっと姉として“おねだり”はプライドが許さないのだろう。
みんな顔が一緒! …あれ? 1人だけ違う?

●最後のコイン

僕は荷物を忘れたフリをして少年たちをその場に待たせることにした。急いで部屋に戻り、慌ててカバンからコインを1枚取り出し、ポケットにしまう。
彼らのところに戻ると、仕切り直して、写真を撮った。
撮影を終えると、僕は、「あ、そういえば、もう1枚コインがポケットに余っていたなぁ、特に要らないから、どうしようかな、あ、そうだ君にあげるよ」と、さりげない感じで彼女に渡した。彼女も、「まぁくれるのなら、もらっとくわ」といった面持ちで受け取る。
だが、渡して気づいた。その1枚は、ベトナムの最後のコインだったのだ。僕は自分の顔が少し引き攣るのを感じた。
何かを察したのか、彼女はさりげなく僕に微笑んだ。


おねーちゃん登場!