
帰り際、浮ついた気持ちが一気に地へと落ちた。突然、一緒に肩を並べて歩いていた旅の連れ合いが胸ぐらをつかまれ、暗闇に引き込まれていった。彼らが黒人だったせいか、街灯の明かりが届かない路地裏だったせいか、二人組みのその姿にはまったく気付いていなかった。
「お前はそこから動くんじゃない」
背の低い、いかにも弟分の方が、僕の担当のようで、すごんできた。僕は、恐る恐る、目を凝らして連れの様子を見ると、連れ自身のほうからも黒人の胸ぐらを掴み返している。
「なかなか、やるなぁ」なんて、思いながら、僕は彼を助けるために一歩踏み出そうとした。


僕は友人を助けようと、歩み寄ろうとした。するとすかさず、弟分が「動くな」とつぶやく。それでも、振り切って近づこうとすると、連れが、黒人を押し始めた。すると、どんどん黒人は後ろへ下がっていく。おいおい、見掛け倒しかよ、と思いながら、僕も弟分の気持ちばかりの僕へのタッチを振り払ってみた。すると、あまりにもあっけなく彼の手をはじくことが出来た。
あれ?おかしいぞ。連れと僕は、目をあわせた。意見は一致したようだった。お互い、相手を、あっけないほど、簡単に振りほどき、何事もなかったかのように、歩き始めることにしたのだ。すると、彼らは振りほどかれたのに、ビックリした様子で、動きがとまってしまった。
黒人2人は、おそらく、ヤク中かなんかなのだろう。彼らのような人間は、意思がすごく弱く状況に流されやすい。
連れと僕は、「ザコだったね。筋肉もたいしてついてないし、ナイフを見立てて、ポケットから、棒状のものを突きつけてきたと思ったら、指だったし、ほんとなんちゃってだよな、がははは」
なんていう会話を交わしながら、宿への岐路に着いた。
その途中で、ピザスタンドによって、ピザをテイクアウトした。2人とも、受け取ったピザは、ぶるぶる震えて、うまく食べられなかった。心を落ち着けようと、連れはタバコを吸おうとポケットに手を入れると、タバコは盗られていた。「僕と連れは、目を合わせて、彼らはタバコがほしかっただけなんだな、がはは」と笑った。お互い震えに関しては、触れなかった。

「ってかさ、正直びびるに決まってんじゃんなぁ」と、僕ら2人は目を合わせて頷いた。若さにつきまとう見栄は、時として、重大な行動の選択をかえてしまう、パワーがある、と感じた日だった。