2009年12月2日水曜日

カンチャナブリでの出来事

◎サムローのおっちゃん
チャオプラヤ川を船で渡った先にあるトンブリ駅から、2時間ほど電車に揺られると着くのがカンチャナブリだ。タイの4月の猛烈な日照りの中、駅を降りて、ゲストハウスを見つけるために、とぼとぼと歩き始める。電車から降りた外国人観光客は2、3人しかいなかったので、案の定サムロー(自転車タクシー)に乗ったおっちゃんは僕のところへきた。
「どこいく?乗りなよ。いい宿を知っているから」
バンコクの宿にあった古いロンリープラネットで目を付けておいた「ポンペン」という宿にしようかなと漠然と思っていたので、
「宿はもう決めてあるし、その宿までは遠くない。だから君の助けはいらないよ」と彼に言った。するとすかさず、宿の名前を聞いてきたので、僕は「ポンペンだ」と答えた。おっちゃんは笑顔になって、自分のきているTシャツを指差して、「ほら、お前が行きたいポンペンはここだろう。俺はスタッフだ。連れて行ってやるから早く乗りな」見ると、確かに彼のTシャツには、『PongPhen』とある。僕は、始めからそう言ってくれよなと思いながら、猛烈に暑い中を宿まで歩く必要がなくなった安堵感のままサムローに乗り込んだ。

◎カンチャナブリの宿
おっちゃんが、ぎこぎこと必死に漕ぐと、5分ほどで宿が集まる通りに着く。こじんまりとして、かといって田舎過ぎるわけでもなく、バンコクの次に訪れる町としては最適という感じ。ほのかにカオサンの陽気さが漂っていて、とてもいい。バックパッカーたちが、「明日もやることないけど、まぁいっかー」といった面持ちで、幸せそうな顔をしている。多分僕もしている。
宿に着く。しかし、いっこうにおっちゃんは僕を宿へ案内しない。おかしいなーと思いながら、自分でポンペンのフロントへ行く。敷地にプールが見える。宿の雰囲気はかなり素晴らしい。
「ごめんなさい、80バーツのシングルはいっぱいなのよ」フロントの女性に万遍の笑みで言われる。仕方がない。80バーツの部屋がありながら他の部屋に泊まって150バーツも払いたくなかったので、礼を言って他の宿へ移ることにした。

◎酷暑はヒトを熱しやすく冷めやすくする
ポンペンのスタッフであるおっちゃんにも礼を言って、隣の宿へ行こうとすると、腕をつかまれた。
「50バーツだ」
そうきたか。スタッフと思って、安心したのが間違いで、彼はただのサムローのおっちゃんだった。Tシャツもスタッフだから着ていたわけではなかった。
「さっきお金は?と聞いたら、ノープロブレム、スタッフ、スタッフ、オーケーカモーンと言ったじゃないか」
と言っても聞く耳なし。「わかった、お金は払うが、50バーツは法外な値段だ、5分しか乗っていないから10バーツ、いや20バーツでいいね」と言うと、おっちゃんは、これ見よがしに、汗をアピールし始め、こんなに汗をかかせて20バーツとは何さまのつもりだ、と凄んできた。それが騙すつもりだったのかというよりも、やり方があまり好きではなかったので、僕も負けじと、胸を張って威嚇した。そして彼に10バーツだけ右手に握らせて、「コップンカー!」と、強行突破!彼はそれでも追いかけてきてわぁわぁ叫んできた。「あーめんどくさいな」と思って20メートルくらい歩いたところで、振り返ると彼はそこから動いていなかった。
4月のタイはとても暑い。彼の気迫は2分と持たなかったようだ。

◎ビルマの空は美しい
結局、宿は近くにある「Jolly Frog BackPackers」というところで、シングル70バーツで泊まることができた。ここもロケーションが素晴らしくよく、日がな一日ほげーっと幸せにすごした。宿の庭は広く、芝生があり、そんなに高くない美味しいレストランもついている。クワイ川の桟橋まで降りることもでき、そこで泳げる。
川の対岸、つまり西側には、遠くにビルマ(ミャンマー)との国境の山々が連なる。毎日夕刻になると遠くにそびえるその山々には大きな雷雲が発生し、これでもかと稲光が光る。夕暮れのオレンジ色とその稲光が相まって、涙が出るほどきれいだった。

◎屋台での出来事
地元民で賑わう屋台でご飯を食べていたら、おじいさんに話しかけられた。中国人か?と聞かれたので、「イープン(日本人)です」と答えた。おじいさんは、遠いところを見るような目をして、「イープン」と小さな声でつぶやいた。そして、ぼそぼそと語り始めた。戦争時代のことを語っていることだけはわかった。でもタイ語なのでそれ以外はさっぱり。中国というフレーズだけ聞き取れた気がしたので、中国語で、中国?と聞くと中国語が少し話せることがわかった。そこで筆談を試みた。でも、彼は漢字はもうとうの昔に忘れたようで、首を横に振った。スコールが降りそうな気配がしてきたので、僕は一杯だけおごってもらったお酒の礼を言い宿に戻った。おじいさんは僕と話す間、ずっと遠いところを見る目をしたままだった。

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