2010年8月3日火曜日

長旅に際しての個人的な僕の移動のきっかけ①

◯なぜそんなところに覗き穴が!?

中庭にある洗面台で歯を磨いていると、すぐ脇にあるドアからシャワーの音が聞こえてきた。
「こんなところに、シャワーがあったのか…」
ふと目を向けると大変な事実に気付いた。なんと、そのドアの鍵穴には1㎝ほどの覗き穴のようなものがあった。驚きと興奮のあまり、僕は泡をふいてしまった。(と思ったら、歯磨きの泡が垂れていただけだった)
「焦るな。焦りから良い結果は生まれないぞ」と自分を諭すように呟き、僕はまわりを見渡した。中庭には、食事のできるテーブルが2つ、計8人分の席がある。僕は、ごく自然な面持ちで、チラリとテーブルに目をやると、そこには誰もいなかった。さらにそのテーブルの奥には、キッチンがある。そこで、宿泊者の食事(オーダーがあれば)を作る。テーブルに誰もいないのだから、当然キッチンには誰もいなかった。僕は、よしよし、いい流れだ、と、歯を磨く手に力が入った。


◯No Drugs in Puri!!

インドのオリッサ州にあるプリーは、コルカタからおよそ500km南西にあるベンガル湾沿いの小都市。かつては「西のゴア、東のプリー」といわれるヒッピーの聖地だったようだが、僕が訪れた2008年6月は、ちょうど雨期に入り始めた頃だったこともあるのだろうが、かなり閑散としていた。

「ハシシ、ハシシ、ハパ、ハパ、ニホンジン、ヤスイネ」とマリファナを売り込んでくるプッシャーの姿もあまり見かけなかった。(バラナシやコルカタでは、本当にたくさんいた)
プリーは、ヒッピーの聖地という以外にも、ヒンズー教の四大聖地の一つ、ジャガンナート寺院の門前町という顔もある。参道である町のメインストリートでは、お祭り用のどでかい車輪を作っていたり、お土産や宗教グッズ、お菓子屋など無数の出店が並んでいたり、野良牛と巡礼者が戯れていたり、実にインドらしい混沌具合が見られた。




◯「世界に取り残された」ホテル・ガンダーラの日々

僕が泊まっていたホテル・ガンダーラは、日本人に有名な3つの宿の一つである。そこには当然のように無数の日本の本があった。プリーでできる観光や暇つぶしを一通り済ませると、部屋にこもってそれらの本を貪るように読んだ。
雨期で、外に出るのが億劫だったのも、部屋にこもることになった要因だ。そうして、外出は一日に数十分という日が続いた。

ホテルには、ほとんど宿泊客がいなかった。が、ある日、隣の部屋に、インド人(?)男性と日本人女性のカップルやってきた。ある時、すれ違い様に、簡単な挨拶を交わした。
やがて、次第に僕は「世界に取り残された」気分になっていった。ホテルにあった「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」をいっきに読むと、それまでの陰鬱な気分に拍車をかけ、頭の中がぐるんぐるんになった。

突如、桶をひっくり返したようなスコールと激しい雷が町を襲った。と同時に、「カチン」と、頭の中でスイッチが切り替わり、僕は東南アジアでさんざんな目にあった、“キマっている”ときを思い出し、目眩が止まらなくなった。ハッパから手を引いて、およそ、ひと月は経っているはずなのだが…雨がやみ、透き通った空気が町を軽やかに見せても、僕の気分は軽やかにならなかった。
頭の中の何かがおかしかった。

◯思考は一転、エロ一直線へ!!

気分を変えなくては。

このままではまずい、と思考がおかしな方向に行く前に、行動をすることを決意。
僕は、汗まみれの服を入念に洗濯し、コチコチに固まった身体をじっくりと時間をかけてストレッチした。徐々にではあるが、集中力が高まり、いくぶん頭の中もクリアになった。さらに顔を洗い、歯を磨く。すべての歯垢を取り除くよう、実に丹念に。シャワーの音はそんな矢先に聞こえてきた。
鬱な気分は吹き飛んだ。頭は、エロ一直線!!誰かに見られていないことを確認すると、僕は勇んでかつ慎重に鍵穴に目を向けた…

「うわっ!!」突然、ベチョベチョしたものが僕の足に触れた。
寡黙に掃除を担当するインド人が、ぼろぼろになった真っ黒な雑巾で僕の足を拭いたのだ。彼自身も僕がそこにいたことに、びっくりしたようで、目を丸くしていた。(なんなんだよ、びっくりさせやがって、バレたかと思ったじゃないか…)僕はそう毒づきながら、歯磨きを済ませ、部屋に戻った。部屋に戻るとき、料理担当のインド人と目が合った。彼は、ほくそ笑むようにニヤリとした。

◯満を持して、2度目のチャンス到来!!

焦りは禁物だ。僕は、耳を凝らして、次のチャンスをうかがうことにした。こっちには時間だけならいくらでもある。飯を食べるのも忘れ、僕はその時を待った。
次にシャワーの音が聞こえてきたのは、日が落ちかけてきた、夕暮れ時だった。
僕は、歯を磨き始めた。そして、前回と同じように、中庭を見渡し、誰もいないことを確認。よし、今回は間違いない。誰にも邪魔されないぞ、いや、むしろ、この際、邪魔されようが見てやる、とばかりに気合いを入れて、鍵穴に目を動かした。

そこには、期待通りのあの姿が…と思った瞬間、また足下にいる雑巾がけのインド人と目が合った。そして、「君の足下を拭きたいから、どけ」というジェスチャーをされた。
(こ、こいつめ…)僕は怒りを覚えた。きっと顔も凄い剣幕をしていたはずだ。
すると、キッチンの方から、料理担当のインド人2人が、僕を見ながらゲラゲラと笑う声が聞こえてきた。
「しまった。これは罠だったのか。見られていたのか!?」

◯旅の移動は突然に…

何度か、耳にしたことがあった。シャワー室にわざと覗き穴をあけておき、それを覗いた宿泊客から、お金をせびるという手段だ。
(やられた…)

「覗く」ことから、いっきに「いくらまでなら払うか」を計算する頭に切り替わった。(100ルピーか、いやいや、それではいくらなんでも高すぎる、10ルピーずつくらいが妥当なところか!?)などと、考えていると、そのインド人3人はウィンクしながら、近づいてきて、あっさりとシャワー室を順番に覗いた。
(あ!!!おまえら、確信犯だったのかよ…)
僕の気分はいっきにさめた。覗くことはおろか、この町にいるのも嫌になった。

すぐさま、荷物をバックパックに詰め込んで、プリー駅に駆け込み、オリッサ州の首都ブバネーシュワルへ向かった。そこからならば、チェンナイ行きの夜行列車がある気がした。思った通り、チェンナイ行きの夜行列車があり、今にも出発というところだった。
SLクラス(Sleeper Class)なんて乗るきになるか!!とばかりに、車掌に値段がひじょ〜に高いエアコン付二等寝台の席を確認すると、空いているという返事が返ってきたので、僕はその電車に飛び乗った。

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